増崎 孝司 (DIMENSION)

ギタープレイはもちろんの事、サウンド面でも数々のギタリストに影響を与えている「増崎 孝司」氏。

自身がリーダーを務めるバンド「DIMENSION」を始め、様々なセッション、スタジオ等で大活躍のFractal Audio Systemsについて、ラックシステムから移行した経緯や、その使い方まで、増崎氏のサウンドメイキングに大きく携わる(株)オカダインターナショナル「千葉 成基」氏を交えて、お話を聞かせて頂きました。

鼎談

DIMENSION
増崎 孝司

×

(株)オカダインターナショナル
千葉 成基

×

MUSICLAND KEY
田中 貴崇

(L to R)
MUSIC LAND 田中
増崎 孝司 氏
(株)オカダインターナショナル 千葉 氏

結果的にあの(Michael Landau氏の)音を出したいがためにラックシステムを千葉君(CAJ)の所で組んだんです

  1. 田中(以下、田):本日はよろしくお願いします。

  2. 増崎(以下、増):よろしくお願いします。

  3. 千葉(以下、千):よろしくお願いします。

  4. 田:これまで数々の素晴らしいサウンドを残されてきた増崎さんですが、サウンドシステムを構築する上で目指されているトーンというものはどのようなものでしょうか?

  5. 増:僕らの世代はやはりMicheal Landau(マイケル・ランドウ)さんは憧れるトーンですよね。到底コンパクトエフェクターだけの組み合わせで出せる様なサウンドではないし、結果的にあの音を出したいがためにラックシステムを千葉君(CAJ)の所で組んだんです。もう20年以上前の話になるのかな。

    実際、自分が目の前でM.Landauさんのスタジオセッションを見たり、一緒にプレイさせてもらったりした時に感じた「ギターと機材が一体化したみたいな唯一無二のトーン」を自分も出したい!という思いから機材の世界に入っていったのも確かなんですよね。あのサウンドは僕の人生の中で衝撃的な音でした。あのような体験をするかしないかで機材に対する考えが大きく変わると思いますね。

  6. 田:増崎さんがMicheal Landau氏のラックシステムサウンドを間近で体感したその感覚というものは今でも体に残っていますか?

  7. 増:うーん……。ギタリスト仲間と話した時とかも「どんな感じでしたか?」とか聞かれることもあるんだけど、そこまで具体的には残ってないかな。ただ、とにかくめちゃくちゃいい音だったっていうのは覚えてますね。コーラスがかかったクリーンにしろドライヴ・トーンにしても、極上のサウンドでした。アンプのキャラクターを殺さずにラックシステムの「味」の部分がきれいに足されてるというか。

    具体的にどういう機材を使っているかというよりは、音楽に対する彼の向き合い方やギターのトーンをどうやってレコードに記録していくかと言う事を含めてワールドワイドなプレイヤーとしての音の存在が凄かった。形だけ真似しようと思ってできるものでもないなと。当時の僕はEMGピックアップ、フロイドローズ搭載のギターをメインで使っていて、彼もフロイドローズ搭載のギターも使っていたんだけど、あの頃から繊細な自分の指の感覚を拾うパッシブタイプのピックアップを好んで使っていたと思います。確かSeymour Duncan(セイモア・ダンカン)のClassic Stack、JBという組み合わせだったかな。そのサウンドがあまりにも衝撃的で、どうやったらあの綺麗なトーンが出るんだろうと思ってましたね。もしかしたら別のピックアップに移行しようと思ったのもそれがきっかけかもしれません。

  8. 田:昔よりもアクティブピックアップを使われる頻度が少なくなってきていますよね。

  9. 増:知り合いから「どうしてピッキングが揃ってるのにアクティブピックアップを使うの?」と言われたりしたけど、ピッキングが揃っていないからアクティブピックアップを使ってレベルを揃えるという考え方はしてなかったし、僕はそういう意味合いでEMGを使っていた訳ではなくトーンそのものが好きだったんだよね。ただ、段々細かいニュアンスやそういうトーンを追い求めていってたらパッシブピックアップをチョイスするようになっていきましたね。

    あとずっと使っていたアクティブピックアップ(EMG)のトーン自体が変わってきたということもあったり、選択肢が広がりすぎて、自分の中で基準点が曖昧になってきた。そうこうしてる内にJohn Suhrが作ったピックアップが段々気に入ってきて。よくよく考えると僕はそんなにいろんな種類のピックアップを使ってないんだよね。

  10. 千:実はそうですよね。

  11. 増:ベーシックなラインナップはシングルピックアップはV60かML、ギターによってはV70も。ハムバッカーは、ThornbuckerとThornbucker Plus。ロック向け(笑)なギターにはSSVやSSH+も使ってます。全体的に言えるのがギターのヴォリュームを絞った時にトーンの落ち方が自然なものが好み……、同じ感覚でアンプも選んでますね。今はどこのメーカーもヴィンテージトーンを持つピックアップをリリースしてますが、John Suhrはヴィンテージだけじゃなく、その時代にあったピックアップを作っているような気がしますね。

  12. 田:Michael Landau氏は、当時どのような機材を使っていたのでしょうか?

  13. 増:90年代半ばのことですが、CAE OD100が2台、その上に10Uのラックが乗せてありました。ラックの中にはLexicon PCM42が2台、PCM70、MXP-1があり、ノックダウンしたBOSS CE-1、その横にはSE-70がありました。その下には、CAE BC Vibe、Tremoloが入れてあって、あとはシステムインターフェイスといった感じ。

    当時のOD100はまだプロトタイプだったらしく、マイクに「このアンプってどこの?欲しいな~」と話したら、「僕がBob(ボブ・ブラッドショー)に言ってあげるよ」って言ってくれて、それで僕はOD100を使い出しました。彼は当時OD100のクリーンチャンネルは使ってなくて、2チャンネル目のゲインサウンドのみを使っていました。もう一台のOD100はパワーアンプのみで使用していたかもしれません。

    で、どうやってクリーンサウンドを出しているんだろうと思って見てみると、FenderのDeluxe Reverbをクリーンで使ってた。細かなワイヤリングは忘れたけど、ダミーロードを介してデラリバがセレクターの中に戻してあって、「ODにもクリーンチャンネルあるのに、そこまでして拘るのか」って思った。

  14. 千:Fenderでマイキングはしていなかったんですか?

  15. 増:うん、Fenderのアウトからシステムに入ってた。

  16. 千:では、鳴ってるのは別のスピーカーから?

  17. 増:Marshallのキャビネット2台で鳴らしてたね。OD100はチャンネルを切り替えず、ディストーションサウンドを弾いて欲しいとオーダーすると、アンプのブースト量を調整しながら後はチューブスクリーマーで軽くサウンドを押してる感じ。少しウケたのは何故だかチューブスクリーマーとかワウをつなぐパッチケーブルは安いケーブル使っていて、そこは拘らないんだって思った(笑)。でもそれも含めてLandauさんなのかなって(笑)。

  18. 千、田:(笑)。

圧倒的にFractal Audio Systemsを信用しはじめたのは『Axe-Fx II』になった時

  1. 田:私も増崎さんが長年お使いになられていた大きなラックシステムを色々拝見しておりますが、なぜそこからFractal Audio Systemsをメインで使用するようになったのでしょう?きっかけは何だったのでしょうか?

  2. 増:まず最初にFractal Audioに自分がに出会ったのは、Ultraというシリーズでした。あれを最初に仲間内で試した時は、「アナログのアンプがあってデジタルモデリングの物がある」という僕の考え方の中では、気持ちは正直フラクタルにあまり向かなかったんだよね。どちらかといえばマルチエフェクターの延長線上にあるとしか思えなかった。やっぱり、その当時のギアの聞こえ方は、僕には透明性が薄いというか、あまりにも作られた音という感じがありました。アンプを操作しているのではなく、足元のエフェクターを操作している感覚で、ラックタイプにはなってるけど、中に入っているものはモデリングというよりは模倣(もほう)されたものというか……、最初は似てるっていう感覚が感じられなかったのは事実です。

    Fractal Audio Systems Axe-Fx Ultra

    でね、面倒臭くてしばらく放置してたわけ。当時はまだラックシステムを使っていて、色んなライブやレコーディングをしていた時、少しだけトラックの差し替えが必要になったんです。その時にたまたま『Tone Match(トーンマッチ)』という機能がありますよって言われて試してみたんですよ。その時にトーンという音に対する考え方がデジタルサイドからの見方でこんな風に似せることができるんだって体感して……。それで自分の中でFractal Audioっていうツールに対しての垣根がちょっと取れ始めたって感じですね。

  3. 千:当時使用していたラックシステムの音をAxe-Fx IIにTone Matchを使用して取り込んでみました。Tone Matchで作った音とラックシステムの音を比較してこれならいけると思われたのでしょうね。但しTone Matchはすぐに使用しなくなりましたが……(笑)。またエフェクターもLexicon、Eventide、TCのいつも使用されているエフェクトをAxe-Fx IIに置き換えるガイドを作る作業を行いました。

  4. 増:なので自分が圧倒的にフラクタルを信用しはじめたのは、今も使ってる『Axe-Fx II』になってから。このシリーズになった時に、コーラス等のデジタルエフェクトの追従性が自分が持ってるラックシステムとさほど違いがないなって思うようになって。それが決定的かな。それでFractal Audioを完全に信用するようになった。これで巨大なラックシステムと全く同じサウンドを作ってみよう、アンプから出してる音と寸分違わない音を作ってやろうって思えるような内容になってた。

    Fractal Audio Systems Axe-Fx II
  5. 田:Axe-Fx IIを使い始めてからも、当時はまだラックシステムと両方使用されていたイメージがあるのですが。

  6. 増:そうですね、まだ両方使っていましたね。

  7. 田:それが近年は19インチのラックシステムがほぼFractal Audio Systemsに集約されているのではないかと思うのですが、そのあたりはどうでしょう?

  8. 増:結果的に自分がAxe-Fx IIに気持ちを委ねられたのは、自分が持ってる19インチラックのディレイ、リバーブ、ピッチシフトとかが、あの中で全て完結できるって思い込んだっていうか、思えたのがきっかけでした。

    まずは自分が持っているエフェクター、例えばLexicon PCM80、81などのアルゴリズムを紙に書きだして、これと同じような音や効果が出るのだろうかってとこから始めて。自分の中ではアップデートするというより移し換えるという感覚で触りだして、1~2ヶ月かけて何となくだけど同じトーンが出せると思えたのがディレイとコーラス。自分が使っているディレイ、コーラスセクションとほぼ同じ感覚で使えたのは大きかった。ディレイとコーラスが、自分がコードやソロを弾いた時にどれくらい音の散り方とか飛び方が似てるんだろうって。綺麗にピンポンするのではなく、L/Rに分散しながら後ろに飛んで行ってくれるかということを軸に1週間くらい音作りをやれて、スタジオのエンジニアと一緒に聴いてもサウンドに差がないという所までやれたのも大きかったです。

    ただ最終的にエフェクトは自分の19インチのラックサイズの中で12Uサイズくらいまでの事は再現できたのですが、肝心のアンプヘッドの部分というのは中々到達できなかった部分があって、先輩ミュージシャンの方々から音をもらったり、試行錯誤を繰り返す中で今に至るような感じですね。例えば、表面的にMarshall、Fenderアンプを使うという中で視覚的な所からくる部分と耳に入るものの誤差をなくすということが、Fractal Audioに限らず、モデリングのハードルだと思うんです。今でもそここそが肝だと思います。

  9. 田: 結果的に音作りをする中で空間系(特にディレイ、コーラス)のクオリティに関して、これならいけると思ったことがフラクタルを使う決め手になったということでしょうか?

  10. 増:そうね。デジタルのチップでできているエフェクター、例えばディレイ、コーラス、リバーブはラックに入っていても、足元のストンプペダルでも基本的には一緒で、たまたまそれがフラクタルの中に入っていると思えるかどうか。もし19インチラックでしか出ない音があるとすれば、それは後ろで使われているワイヤー(ケーブル)のトーンの違いだったりね。逆にAxe-Fx IIならパッチケーブルを使わなくてもいい潔さに安心感があります。

    それと僕自身、今までFractal Audioでトラブルになったことが無いんだよね。ライブ中に音が出ないとか、ホワイトアウトして何も音が出ないというマイナスな経験が一切無い。そういうのがFractal Audioに対する信頼の厚い部分のひとつでもあると思う。

    90年代のアナログレコードからCDに移る時に、そこで自分がうまく乗り換えられた人たちとか、MIDIに対する警戒心や懐疑心が無い人たちというのは、器用に頭を切り替えられた人達だと思います。特にギタリストという人種は自分も含め、中々切り替えられない。無くなっていくものに対する執着心というか、そう言ったマイナス思考はそう簡単に切り替えられない人が多いと思います。何かの小さなきっかけさえあれば変化を楽しめるんじゃないかなと思ってた時に、うまくマッチ出来たツールの一つにパーソナルなイヤーモニターがあった訳です。ここが最終的な自分の音の出口だと割り切ってからは、この中で自分が思ういい音を作ってしまえばいいんだと思ったのも、ラックシステムからFractal Audioに移行する大きな転機の一つだったと思います。

    19インチラックシステムの音がいいと思い込んでたというか、新しい部分を正面から見ようとしてなかったのかも知れないね。大きなラックシステムを一つ一つ操作してる感覚とFractal Audioの小さなスクリーンのページをめくっていく感覚は全く同じではないけれど、インストールされてるもののクオリティは同等レベル。自分には何が必要なんだ?と冷静に考えたら、やはり質の高さと利便性だった。どうせ使うのなら早い時期にとなったわけです。

その効果が欲しいからその機材を使う、それがたまたま19インチラックサイズだった

  1. 田:当時お使いになられていた19インチのラックシステムには様々なエフェクターがマウントされていました。実際どのような使い方をされていたのでしょうか?

  2. 増:基本的に僕の19インチラックに関しては千葉君がよく知ってるけど、Lexicon PCM80、81、 42とかを使ってきました。愛用していた理由はその一つ一つが持つ音が好きだからです。

    複雑なパッチングには一切していなくて、すごく贅沢な使い方をしていましたね。Eventideを使っていた時もMIDIで変えたりせず1つのプログラムしか使っていませんでした。その効果が欲しいからその機材を使う、それがたまたま19インチラックサイズだった……、というかそれしか無かった。

    Fractal Audioはそれら全部が入ってる。だから好きになったんですよ。

  3. 田:現在使用されているFractal Audio Systemsの3機種「Axe-Fx II」「AX8」「FX8」ですが、どのように使い分けていますか?例えばこういう現場にはこれを持っていくというような基準はどうされているのでしょう?ファンの方が非常に気になっている点でもあると思います。

  4. 増:まず大きな基準として、ラックタイプのAxe-Fx IIを持っていく時は、基本的にはイヤモニを使う現場です。以前はDIMENSIONでも使ったりしてたけど、今はアーティストのサポートの現場等で使う事がほとんどです。機材に関してランク付けはしてないけれど、Axe-Fx IIのセットは僕の中ではかなり上位になってます。2Uのラックで完結してるって意味で、もちろん中身の充実度からしても。案外とフルジャンルに対応しています。

    イヤモニを使わない時…、例えばバンドのアンサンブルがその音楽性を司るような場合は、FX8のセットかAX8を使ってますが、むしろこちらの方が癖は強いのかも。AX8はどちらでもいけるという感覚ですが、CPUのリミットを考えて、ある程度プリセットの内容が簡素化されたAxe-Fx IIとFX8の中間のサウンドを必要とする時に持っていきますね。

    FX8とSuhr Hedgehogを使ったシステムは以前のシステムと今のギアのいいとこ取りな内容になってるけど、拘りが多いがゆえに登場させる現場も一応気をつけて選んでいますね。サウンドチェックに時間がかけられたり、エンジニアやテックとのコミニュケーションが常に取れるような現場はこれらを使う喜びも得られるし。

    大雑把に言うと、色んな効果(エフェクトや音色の変化)を求められる場所にはAxe-Fx II、ある程度こちらの要望やプレイヤー先導で音を決めていけたり、そこまで多くのトーンを必要としない場合はFX8とHedgehogのセット。ライブショウやギグ、比較的シンプルなオーダーの録音の時はAX8って割り振りかな。

  5. 千:そのFX8とSuhr Hedgehogセット以外にもボードを幾つかお作りしましたが、そのあたりはどうなのでしょうか?

  6. 増:それは、単発のコンパクトエフェクターをスイッチャーで切り替えるシステムだよね。ラックマウントをノックダウンして千葉君のノウハウが詰まったペダルボードで、小さなライブハウスでも使ったりもするけど、基本的にはスタジオセッションワークでの使用がメインですね。

  7. 田:そうなんですね。確かに今でもアナログのエフェクターボードを作られたり、中に入っているエフェクターが更新されているのを拝見しています。スタジオのセッションなどではそれらを使用して、アナログのアンプを鳴らしてマイクで録ってレコーディングする形なのでしょうか?

  8. 増:ある程度時間に追われるレコーディングセッションの現場っていうのは、自分の音を持ち込むって考えよりも、レコーディングエンジニアに「その楽曲に合う音」をマイキングの仕方等で音を提示してもらった方がいいと思ってます。もちろんその時でも「自分らしさ」は出してるんだけど、例えば2時間でトラッキング、ギターダビングを数本となると時間との戦い。短時間での作業の時は単体エフェクターの集合体で作った音をエンジニアの方に仕事をしてもらう方が、お互いの都合もいいんじゃないかな。

    FX8とSuhr Hedgehogセットを持ってく場合もあったりするけれど、案外僕の拘っているトーンがそのセッションでニーズにあってるのかどうかは分からない。セッションマンとしての僕の役割としてね。それよりかは拘りの中にもフレキシブルな対応のペダルボード、アンプ、スピーカーのセットを持ち込んだ方が早いし、自分のトーンが出せるギター(楽器)を持っていけば最小限のギアで最大限の事が出来るんじゃないかと考えるわけです。

最近はもうモノラルの方が逆にいいなと思い始めた

  1. 田:私も個人的にFX8を所有していて、増崎さんと同様のシステムを千葉さんにオーダーしました。最近のDIMENSIONのライブ、レコーディングではこのシステムをよく見かけるのですが、やはりFX8システムとSuhr Hedgehogを使ってギターキャビネットを鳴らし、マイクで音を録るシステムが良いと感じているのでしょうか?現状、このシステムが増崎さんのメインシステムではないか思っていたのですが……。

  2. 増:もちろん、このシステムがメインです。歴史を遡ってみると、Mesa Boogieに始まりIntersoundやPEARCEのプリアンプ、そこからプログラミング出来るプリアンプ等を通って3+SEやOD-100、そしてBadger 30アンプヘッドというように移行してきました。

    スタジオプレイヤーとして仕事を始めた頃は既にライン送りが当たり前の時代で、アンプを持ってってマイクで録るという事が古いという感覚だった。それが90年代半ばに突然(?)ハイファイ<ローファイの波が来て、ギターそのものの価値観や音楽性が一気に時代を遡った。なので使う機材も変えていく必要に迫られたわけです。時代がデジタル化していく中でそれに逆らうようなカタチでアナログの暖かさが再注目された感じですね。そこが一つのターニングポイントにはなりましたね。ラックマウント・プリアンプの繊細さよりもより「ギターアンプらしさ」を持つアンプヘッドへの興味を持ったわけです。

    それでOD100~Badger、そしてHedgehogへと移っていきました。Badger 30はソロ作「IN AND OUT」の殆どで活躍してくれてね。もうこの時点で自分の音の好みがブティック系アンプの方に惹かれてたんだけど、自分でも知らない内に、更にコントローラブルなアンプヘッドを探していました。5~6年前くらいかな、毎晩色んなギタリストの動画とか見てね。その時にたまたまSuhrのサイトでHedgehogの音聴いて「実際の音聴いてみたい!」といても立ってもいられなくなって千葉くんに聞いてみた訳です。

    弾いてみたら一見丸みのあるサウンドの中にちゃんとギザギザした部分が感じられて、そのサウンドにすごくハマっちゃったんですね。ミッドレンジがふっくらしたトーンなんだけど、何よりもOD-100、3+にはない音圧感というかパンチ感が心地よくて。コンボアンプの延長線上にあるようなサウンドで、リッチな倍音でフィンガリングも楽に感じられた。なのでこれを基準にシステムを構築しようと思いたったんです。

    出力もそんなにない機種だけど、それ故に真空管アンプをフルドライブさせた様なパンチ力のあるクリーン、ドライブサウンドを引き出しやすいですね。マイク乗りもとても良いので目の前で鳴ってるようなシンギングトーンが得られて長年の夢?が叶った感じです。最初はこのシステムをもうひとつ別のパワーアンプに送り、ステレオにして鳴らしてましたが、最近はもうモノラルの方が逆にいいなと思い始めてて。

  3. 田:モノラルがいいなと思うのはどういった理由からなのでしょうか?

  4. 増:まず、ステレオよりモノの方が聞こえやすい、音像がはっきりしたポイントに立てられるところです。ステレオにはステレオの綺麗さ、心地よさがあるんですけどね。僕のシステムはステレオ仕様でしたが、ソロの音はあまり広げないで出してました。ソロの音にコーラス等をかけることがほとんど無くて、ただディレイだけがパンニングしてるだけだから、それだったらいっその事モノラルでいいんじゃなかなと思いはじめた。その方がいま使っているSuhr A.C.E.(アナログスピーカーシミュレーター)、REACTIVE LOAD(ダミーロードボックス)も使いやすいし。

    Suhr A.C.E (Analog Cabinet Emulator) & REACTIVE LOAD
  5. 田:実はSNSを通じて増崎さんがその2機種(Suhr A.C.E.、REACTIVE LOAD)をお使いになっていることを知り、個人的にもすごく気になっている機材なんです。お使いになられて、それらのポテンシャルはどのように感じていますか?

  6. 増:スピーカー選びをする必要性がなくなりましたね。もちろん今までのようにスピーカーを鳴らしてマイクで録ってPAに送るメリットもあるけれど、A.C.E.を使う事によってスピーカーが鳴っている状況をシミュレート出来るから「このヘッドにはどのスピーカーとのマッチングが良いのだろうか」などと、僕にとっては余計な事を考える必要性がなくなったのは大きいですね。ただでさえ毎日色んな事考えてるからね(笑) 。

  7. 千:アンプヘッドがHedgehogになってから、どんなキャビネットが良いんだろうっていろんなスピーカーを入れ替えたりしていましたもんね。

  8. 田:そんなスピーカー選びをする中でA.C.E.に出会ったわけですね。

  9. 増:千葉君が持ってきてくれたんだよねー。

  10. 千:それもライブ本番当日に(笑)。

  11. 田:そうなんですか(笑)。

  12. 千:ポンと持って行って「キャノン用意してください」って(笑)。とりあえずやってみましょうと。

  13. 増:そう(笑)。実は最初あまり信用していなかったんだよね。というか存在も知らなかったし、興味がそこにいってなかった。今までのシステムにある程度満足していた(スピーカーの相性のみを悩んでた)ので。ライブレコーディングをする時に千葉君が来てくれて「これ(A.C.E.)も録ってみましょう」と。そのライブでは実際スピーカーの前に立てたマイクの音をイヤモニに返して演奏しようと決めてて。じゃあとその時にA.C.E.を経由した音もミキサーに返してもらってその音を聴いてみたら「あれ?あまり変わらないな……」って思ったんです。多少の変化はあったかもしれないけど、A.C.E.の音は明らかにスピーカーらしい音が鳴ってるように聴こえたんだよね。

    PAエンジニアや他のミュージシャン、千葉君とかに外音でマイクの音とラインの音のどっちがいいかって判断してもらったら、ほとんどの人がA.C.E.からPAに送ったラインの音がいいって言ったんだよね。それで自分の中でも変なわだかまりが取れたというか。いきなり現場で試せたのも良かったかな。余計な先入観なしに試せたし、最初から大きな期待もせずにすごくフラットな気持ちで比べられた。あと余計な力が入らずに弾けたのには驚いた。全てタイミングよくうまくいった感じですね。千葉君の罠に引っ掛かったんです、自然と(笑)。

  14. 千:いやいや(笑)。正直、どっちに転ぶか全然わからなかったので。ダメならダメだって。でも、とりあえずやってみたいなって思ったんですよね。

  15. 増:そう。それはね、千葉君の「どう聴こえるんだろう?」っていう確認でもあったと思いますよ。だってそんなに推してなかったもん(笑)。

  16. 千:それはまぁ、聴いてみないとわからないっていう所でもありましたし。

  17. 増:そうそう。こういう部屋で聴いてるのとホールとかライブ会場で聴くのでは違うしね。

今使ってるパッチングが必要最小限であり最大の使い方

  1. 田:増崎さんが、Fractal Audioを使うメリットとしてアンプシミュレーターのクオリティはもちろんの事、空間系エフェクトのクオリティの高さを感じていらっしゃると思うのですが、お使いの「Axe-Fx II」「AX8」「FX8」では、空間系のパッチングはそれぞれ異なるのでしょうか?また作り方のコンセプトはありますか?

  2. 増:基本的には同じです。コンセプトは自分が昔見たMichael Landau氏のに準じたパッチングの形にしたいっていうのがあるし、長年使い愛用してるRIGのパッチングが必要最小限であり最大の使い方だったので、それを移植するような形で使い続けています。もっと他にもあるのかも知れないけど、そこに自分がテコ入れする必要性がないと思えるような効果が今のパッチングで得られてるので満足しています。

    プリセットの中のパッチングに関しては、人それぞれパターンがあっていいと思います。音のワイド感(広がり方)は人それぞれ感じ方が違うし、例えば僕のプリセットを弾いてもらった際に広がりすぎるって感じる人がいて然り。でも僕は昔から背中で感じてた広がり方っていうのは今の形だったので、それを変える必要も見当たらない。

  3. 田:そのルーティングを構成する中で、具体的な方法などはあるのでしょうか?

  4. 増:うーん……。特にはないと思いますが、コーラスのうねり方、ディレイにピッチシフトがかかっていたり、パンディレイの音の飛び方が一定では無いとか、それが自分の中で一番心地よいと思えるものですかね。

  5. 田:変則的なディレイタイムの使い方が非常に気になるのですが、その音作りの方法はどのようなものなのでしょうか?

  6. 千:マルチディレイで複数のディレイタイムを立ち上げて、変則的なパンディレイになるようにタイム数を設定していますね。

  7. 増:現在使用しているHedgehogを使ったシステムは、最近モノラル接続が多いので、そこまでパンディレイが左右には飛ばないんですが、ディレイタイムが必ず一定では無く、音がこだまして色んなところに当たって跳ね返ってくるイメージ……、かな。

  8. 田:今でもFX8のシステムにはアナログペダルが採用されていますが、Hedgehogはクリーン、クランチに設定してペダルエフェクターでサウンドを押し出すイメージで使用されているのでしょうか?

  9. 増:シンギングトーンと言われる派手にゲインドライブさせないサウンドやクリーンはHedgehog側で作り、いわゆるハイゲインサウンドはSuhr Eclipseを使い、そのどちらでもないものはXotic Soul Drivenで作っていますね。昔からディストーションのバリエーションを数種類持っていたいというのが僕の考え。もしかしたらFX8の中に入っているオーバードライブのストンプペダルを使っていい歪みをゲット出来るのかも知れないけど、今はまだ使っていません。将来的には色々と試して使う可能性もありますね。

  10. 田:最後になりますが、現状トライしてみたいことはありますか?

  11. 増:トライしてみたいこと……。もっとシステムが小さくならないかなって思ったりはします。減らすというよりは、そろそろシステムを一つにまとめたいというか、A.C.E.とREACTIVE LOADが常に組み込まれていて、キャビネットは鳴らさなくていいシステムで全て完結するもの。あとは、そこにアコースティックを織り交ぜてみたいなというのはありますね。ワンタッチでアコースティックのシステムにアンプヘッドを通らないでいけるようなものができたらいいかな。

    たぶん今のままでそれをやると(システムが)大きくなってしまうだろうけど。ただ、アコギはアコギのセットという考え方をなくして、同じシステムをアコースティックでも使えたら結構おもしろそうだなって。無理だよね?(笑)。

  12. 千:やっぱりちょっと大きくはなりますね。

  13. 増:やっぱりね(笑)。

なるべく最先端なものは取り入れつつアップデートしていけるようにしたい

  1. 千:増崎さん、この機会なんで聞きたいんですが『Axe-FX III』の発売が発表されましたが、どう思われますか?

    Fractal Audio Systems Axe-Fx III
  2. 増:すごく興味ありますよ。自分の持ってるものとどう違うんだろうなって。アンプやスピーカーというよりは、イヤモニを使った時にどこまで違うんだろうって思います。今のタイミングで出してくるってことは、実存する物(アンプ/エフェクター)と比べてもほとんど差がない状態になってると思うんですよ。だからすごく興味もありますし、逆に気に入っちゃったらどうしようって、だから知らない方がいいのかなって(笑)。……コワイでしょ?気に入っちゃったら(笑)。

  3. 田:そうですね(笑)。

  4. 増:だけど知りたいっていう思いの方が今は強いかな。ライブで使ったらすごいんだろうなって。

    ギターでもアンプでもなんでもギアはそうですが、知らない方がいい部分もあるけど、やっぱり取り残されたくないという部分もあるのが多くのプロ/アマ問わずプレーヤーだと思うんで。なるべく最先端なものは取り入れつつアップデートしていけるようにしたいと思っていますね。

  5. 田:本日は、貴重なお話をありがとうございました!

  6. 増:ありがとうございました。

  7. 千:ありがとうございました。

Artist Information

Release Info.

ヤマハミュージックメディア
DIMENSION 増崎孝司 presents
Colorful Tones
~魅惑の音色を生み出すプレイ&サウンドの極意~

2018年3月30日(金)発売!
ギタリスト増崎孝司、唯一無二の“トーン”の真髄に迫る1冊!

日本を代表するフュージョンバンドDIMENSIONのギタリストとしてはもちろん、多数のミュージシャンのライブやレコーディングでも活躍する増崎孝司のギタリストとしての真髄に迫る1冊。

自身の音楽遍歴を紐解くパーソナルインタビューや親交の深いミュージシャンとの座談会などの記事と、DIMENSION25年の活動におけるプレイの変遷がわかるフレーズ解析や、定評のあるギターサウンドへの拘りが詰まった愛用ギター&サウンドシステム紹介、巻末にはDIMENSIONの楽曲から自身がセレクトした3曲のギタースコアを収載。

ファンはもちろん、上達をめざす全てのギタリスト必見の1冊です!

【コンテンツ】
<Long Interview> 僕はこうしてギタリストになった
<Talk Session> ギターインストの未来を語ろう
<Gear Gallery> 愛用ギター&機材ギャラリー
<Sound Making> 唯一無二のトーンを生むノウハウに迫る
<Phrase Analysis> 自身が選ぶDIMENSIONフレーズ解説×30

ギタースコア「Beat#5」「Se.le.ne」「Jazz Cigarette」