MOON GUITARS

25年ぶりに復活を遂げたMOON GUITARSのフラグシップモデル【AT-TERRY】

82年のファーストモデル、92年のセカンドモデル、そして理想のサウンドへと辿り着いた今回のAT-TERRYは自身もAT-TERRYのファンであった山﨑氏の憧れと理想をついに形とした内容となっています。見事な復活を遂げたフラグシップモデル。理想のサウンドへと至るまでの歴史、そして今回の復活に掛けた山﨑氏の想いをお聞きしました。

対談

(株)ムーンギターズ
代表取締役社長

山﨑 等

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MUSICLAND KEY
和田 皓一

(L to R)
(株)ムーンギターズ 山﨑 氏
MUSIC LAND 和田

これ(AT-TERRY)がないとMOONらしくない

  1. 和田(以下、和):本日はよろしくお願いいたします。

  2. 山﨑(以下、山):よろしくお願いいたします。

  3. 和:では早速、AT-TERRYは25年振りとの事ですが、廃番ではなく製作していなかったと言う事でしょうか?

  4. 山:そうですね。92年製作となりますので、25年振りとなります。92年のものは2号機という形にあたるセットネックのモデルでした。5年ぐらいの生産かな?それで生産終了という事になったのですが、やはりAT-TERRY、レゲエマスターと言うとMOONの初期の、今もそうなんですけど、ギターでいうと顔となる存在ではあったのと、再生産という声も頂いていたのと、私自身が個人的に好きなギターでもあり、ちょっとどうしてもやりたい!と、これがないとMOONらしくないと。実はこのAT-TERRYは私の2本目なんです。

  5. 和:25年前のものが2号機?と言う事は1号機があったんですか?

  6. 山:はい、今回のは3番目でして、1号機となる82年に初めて企画した仕様はボルトオンでした。ボディにアーチはここまでなくて、ボディも厚かった。TUNE-O-MATICだったり、アームを付けたりと色々なラインがあったのですが、ボルトオンしかやっていませんでした。

  7. 和:そうなんですね。82年がスタートなんですね。そして色々なバリエーションもあったんですね。

  8. 山:MOONの顔的な部分もあったので、色々なバリエーションを作っていました。82年当時は色々なアーティストさんにも使っていただいていて。そうですね、当時は吉田拓郎さんも使っていて、拓郎さんモデルが欲しいって方が実は今でも1年に1回くらいはあります。実際は拓郎さんモデルではないのですが……。

  9. 和:そうだったんですね。ところでそれはどんなモデルだったのですか?

  10. 山:この様にキルトトップではなくプレーントップで、オレンジサンバーストカラーでした。後はなにも変わってないかなと……。

  11. 和:ブリッジもこのタイプですか?

  12. 山:いやTUNE-O-MATICだったかな……。いや、これですね。確か昨年に1本オーダーがあり製作したので大体覚えています。

  13. 和:昨年オーダー?市場には出てないけど製作はしていたのですね。

  14. 山:はい、1本もののオーダーとして製作はしておりました。こちらからは製作出来ますよというアピールは特にしておりませんでしたので、やはり80年代のMOONを知っている方からあの仕様で作れないかと言う事で。1本ものなので、ちょっと割高にはなってしまうのですが、製作はしておりました。

  15. 和:なるほど。

カッティングとかでジャキッとした感じが欲しかった

  1. 和:そして82年の初代AT-TERRYから92年、25年前の2代目AT-TERRYが発売と。この際にボルトオンからセットネックへ変更した理由としては?

  2. 山:初号機の反省から変更しました。どこが良くなかったと言うか、まずボディが重かった。初代はテレキャスターと同じボディ厚で製作をしていて、メイプルトップ、マホガニーバックですと、どうしても重たかったのと、アーチを付ける事が出来なかった。そこで、セットネックの方が製作上、ネックの仕込みに角度を付けてアーチを付けられるので、それでアーチを付けてボディ厚を薄くしました。今回のAT-TERRYも2号機と同じ厚さとなります。

  3. 和:そして3代目はボルトオン。セットネックからまたボルトオンへと変更をした理由としては?

  4. 山:今回のAT-TERRYに続き、実はセットネックの2代目AT-TERRYを所有しておりまして。2代目AT-TERRYはちょっとサウンドに中途半端感があって、何と言うかレスポールの様な重厚感がある訳ではく、立ち上がりにもちょっと欠けていた。セットネックだとどうしても音が沈んでしまう。ボディ厚を付けてレスポールの様な重厚感を出すという手もあったのですが、それだとカッティングにはちょっと難しいサウンドになってしまう。もっとカッティングとかでジャキッとした感じが欲しかったので、ボルトオンに変更することにより、音のキレと立ち上がりをアップする事にしました。

  5. 和:ボディ厚という部分ですが、見た感じではPRSのCustom 24よりも薄いですよね?

  6. 山:薄いですね。

  7. 和:厚さとしてはPRSのCustom 24辺りの厚さが、セットネックでのいけるところの瀬戸際なんですかね……。レスポールの様な重厚感はありますが、その分ストラトのようなキレのあるカッティング感を出すのはちょっと難しいですよね。でもCE 24の様にボルトオンにするとちょっと中途半端な感じも出てしまう……。その厚さのせめぎ合いの厚さが難しそうに感じます。

  8. 山:おそらくそうですね。2代目AT-TERRYのボディ厚でセットネックではちょっと難しかった。

  9. 和:それで3代目はボルトオンで決定と。

  10. 山:はい。ピックアップと材に関しては変化はあるかもしれませんが、ボディ厚はこのままで進めていきます。

ネックとボディは製作時にトーンとバランスを考えてマッチング

  1. 和:ピックアップと言えば今回はOxalis(オギザリス)を搭載していますよね。Oxalisではレゲエマスターで搭載されているP-90タイプは別として、ストラトタイプで使用されているシングルとハムはクオーターパウンドのポールピースを使っているモデルしか見た事がなかったので、このモデルを初めて見た時はリンディー(Lindy Fralin)かダンカン(Seymour Duncan)かと思っていました。1号機、2号機ではバルトリーニやダンカンといったモデルを使用されていたようですが、今回Oxalisを搭載した理由は?

  2. 山:そうですね。当初はバルトリーニの時もありましたが、このギターでのバルトリーニのピックアップでの印象があまりよくなかったので、それでもうちょっとサウンドを変えたいと言う事でダンカンの59とJBを搭載していました。

  3. 和:バルトリーニはどうしても癖がありますからね……。好き嫌いの好みが分かれますよね。

  4. 山:ポールピースタイプではなくて、バルトリーニはバータイプと言うのもあり、このフォルムとセットネックだと今ひとつ好き嫌いがありまして……。後は見た目的な部分もありまして、このタイプにバルトリーニが載っていますと、ちょっとルックス的に……、という方も多かった。実際に私も営業に持って行って、楽器店さんやお客様にもバルトリーニはどうなのかなって声は頂いていたので、よりちょっと暖かみのあるサウンドにした方が良いかなと言う事でダンカンになりました。

  5. 和:なるほど。そういう部分では確かにそうですね。そういう部分ではクオーターパウンドを使ったピックアップもちょっとルックス的にとなりますよね。

  6. 山:そうですね。一番初期のやはりSCHECTERからの流れと言うのもあり、クオーターパウンドを付けるという案もあったのですが、見た目を落ち着いた感じに持って行きたかった。サウンド的にも落ち着いた感じにしたかったというのもありました。そこでダンカンやリンディーを付けるという案もあったのですが、リンディーは供給の問題があり今回は断念しました。ダンカンというのもあったのですが、より理想的なサウンドを求めて、このモデルの為にOxalisでは初めてとなるカバードピックアップ製作をいたしました。

  7. 和:実際に弾いてみた感じは何と言えば良いのでしょうか……、リンディーのようなクリアさも持っているけど、ちょっとダンカン風なニュアンスもある。キレの良さとミッドの押し出し感がある独特なサウンドを感じたのですが、どういったオーダーをされたのですか?

  8. 山:基本的にはパフのようなサウンドです。一番基本となるサウンドを元にオーダーをいたしました。ビンテージテイストのサウンドを使用しようとも思っていなかったので、タイプとしてはクオーターパウンドのものを使おうかとも考えたのですが、今回は初回という事で、まずは基本で行こうと。

  9. 和:まずは基本という事は今後のバリエーションも気になる所です。指板はずっとエボニーを採用しているのですか?

  10. 山:基本エボニーです。オーダーによってはローズであったり、メイプルだったりと、オーダーによっては変更はしてきましたし、これからもオーダーにより変更は可能です。

  11. 和:なるほど。実際に弾いてみた感じでは確かにレスポールレスポールしてなくて、テレキャステイスト的なシャキッとした感じもあって、サウンドもそして取り回しもよい印象です。

  12. 山:取り回しというか、使い勝手は良くしております。

  13. 和:確かに、この薄さはすごく楽です。どうしてもメイプルトップ/マホガニーバックでこのタイプだと、サウンド的にもちょっとサウンドメイキングが難しいのかなと思っていたのですが、ちょうど良い具合にパキッとしていて、カッティングも綺麗に出来るけど、歪ませたらちゃんとガツンとくる。そして全てのMOONのギターにも言えるのですが、バランスが凄く良い。

  14. 山:ネックとボディは製作時にトーンとバランスを考えてマッチングしてから製作しておりますので。

  15. 和:流石です。各個体それぞれのバランスが良くて、そしてそれぞれの特徴もしっかりと出る。今回完成した4本もそれぞれの特徴があって弾いてて楽しいです。青色のがこれらの中では一番標準なのかなと。凄くパリっとしていて、ハイの伸びも凄く良くて、まさにAT-TERRYの理想的なサウンドといった所でしょうか。特徴的な個体としてはピンクのカラーがちょっと重くて3.7キロだったのですが、この個体だとちょっとレスポールテイストが入ってきてパワフルになって面白い。

  16. 山:そうですね。重量が入ってくるとそうなってきますね。

  17. 和:色関係なしに、弾き比べて1本選びたいって方は絶対楽しいなと。

  18. 山、和:(笑)。

  19. 和:キャラが本当にそれぞれ立ってますので、どれも捨てがたい。

  20. 山:そうですね。

メインストリームなモデルではないけど、逆に言えばどこもやっていなかった部分

  1. 和:最後にこのモデルに込めていた思いは?

  2. 山:そうですね。やはり個人的に憧れのモデルではあったのですが、当時はちょっと手が出なかった。やはりそういう思い入れはあります。発売当初となる80年代はプロ、アマ問わず浸透していたギターではあったので。SCHECTERからの流れではあるのですが、テレキャスターをベースにハムを2個載せて、アーチは入ってないけど、ピート・タウンゼントモデルがちょっとしたブームであったのはそうでした。こう言ったら問題あるかもしれませんが、あの当時はギブソンがあまり良くなかったので……。

  3. 和:そうですね。ちょっと変わった時代ですよね。

  4. 山:色々変なシリーズが出てて、ちょっとおかしい時代でしたね。そんな中で、一種のブームの様な感じでAT-TERRYを持っている方も多かった。今では斬新ではないですが、当時としてはかなり斬新でしたので。当時も今もメインストリームなモデルではないけど、逆に言えばどこもやっていなかった部分でもある。

    フェンダーのフォルムでギブソン的なサウンドを出すという基本的なコンセプトはAT-TERRYもレゲエマスターも同じなんです。当時はハムバッカーのサウンドを出すにはギブソンを買うしかなかった。フェンダーでもハムバッカー付きは当時はなかったし、今のようにコンポーネントをやっている所もほとんど無かった時代ですから。後はレスポールでキレのあるカッティングがしたかった。それを形にしたのがAT-TERRYです。

  5. 和:なるほど。フェンダーフォルムでギブソン的なサウンドという部分ではAT-TERRYもレゲエマスターも基本コンセプトは同じだったんですね。レゲエマスターがレスポールJr的な存在とすればAT-TERRYはまさにレスポール。コンセプトとしてはまさにフラグシップモデルですね。

    当時も今もメインストリームなモデルではないという部分では、確かに店頭ではMOONってギターもあるんですねって言われる事はあります。テレのサウンドは好きなんだけどもっと太いサウンドが欲しいって方が色々と探して、これだ!!ってたどり着くのがレゲエマスターと言う方も多いです。

  6. 山:そうですね。生産の問題があって、どうしてもベースの注文が入ってしまうとベースを作ってしまいますので、ギターはギターでレゲエマスターが実は一番本数出てますが、ストラトのイメージが弱いので、そうなっているのかなと……。今後はギターももっと作っていかないとと考えております。

  7. 和:先にも上がりましたピート・タウンゼントもそうですが、他にもスティーブ・ルカサーや安藤正容氏の使用もあったりと、ギターに関しては知る人ぞ知るといった感じになっている感じがします。

  8. 山:そうですね。未だに熱心なファンの方やマニアの方も多いので。MOONのギターのイメージとしてはルカサーと安藤氏に集約されている部分もありますからね。

  9. 和:実は私のその中の1人だったりするのですが(笑)。

  10. 山:そうなんですね(笑)。

  11. 和:最近では海外ではジョン・メイヤーのオーダーモデルや国内でも若手のアーティストが使用したりと新たな世代での展開も期待出来るかと。

  12. 山:確かにギターは認知度はまだ少ないのですが、近年の生産のデータを見ると、ギターの生産は増えてきておりますので、また新たに認知されて来ているのかなと。

  13. 和:今回のAT-TERRYの復活に伴い、また新たな展開として新しいメインストリームを起こせればと思います。そこで、渋谷店ではレゲエマスター等のレギュラーモデルに加えて、「あの時のあのモデル」と言ったリバイバル的な形でオーダーしたモデルに加えて、今現在のシーンに合わせたモデルとして渋谷店オリジナルオーダーのDjentMasterのようなモデルも出来るんだよと盛り上げたいと考えております。

    moon定番の「Reggae Master」をヘヴィ仕様にブラッシュアップしたカスタムモデル「DjentMaster」
  14. 山:新たにと言う部分ではこれは斬新ですよね。リバースヘッドでこのシェイプ。弾いてみたいと思いますよね。そう言えば、このヘッドシェイプ(JJシェイプ)を採用したのも久々です。

  15. 和:私も今日完成したこれを見てこのヘッドにはビックリしました(DjentMasterは偶然にもインタビューの前日に完成、当日に納品)。また新たな魅力を見つけました!

  16. 山:レゲエマスターに関してはギブソンを意識しているのもあって、カラーバリエーションを含めて、新たな展開も企画しております。

  17. 和:今後の展開が楽しみです!今日はありがとうございました。